菅首相の日本学術会議委員任命拒否の撤回を求めます

【会長理事声明】

菅首相の日本学術会議委員任命拒否の撤回を求めます

2020年10月9日
日本医療福祉生活協同組合連合会
代表理事会長理事 髙橋 淳

10月1日から任期が始まる日本学術会議の新会員について、同会議が推薦した105人の候補のうち6人を菅首相が任命しませんでした。日本国憲法は第23条で「学問の自由はこれを保障する」と述べています。第19条では思想および良心の自由を、第21条では表現の自由を保障しています。私たち医療福祉生協連は今年策定した2030年ビジョンで「多様性を尊重し、すべての人の人権を守るため、公正な社会の実現をめざします。」と宣言しました。今回の決定は憲法の理念に反し、私たちがありたい姿として描いた社会の姿とも相いれないものです。

① 日本学術会議は日本の科学者を代表する機関であり、法的には首相が任命する委員によって構成される会議です。科学者が政治とは独立して様々な見解の表明や提言を行うことは、公正な社会を築く上で欠かせません。過去の痛恨の歴史から、権力が学問に介入することで多くの悲劇、惨劇がくりかえされてきたことを私たちは忘れてはなりません。過ちを繰り返さないために、国家は科学者の多様な見識を尊重し、その提言に耳を傾けるべきです。
② 過去の国会答弁で政府は「任命はあくまで形式」と表明してきました。国会答弁は単なる「口約束」ではなく、時々の行政府が歴史をふまえて発言してきた「責任ある言質」です。したがってその発言を覆すにはそれ相応の説明責任を果たすべきではないでしょうか。首相はじめ政府は今回の任命拒否の理由をいっさい説明していません。
③ 今回任命されなかった学者は過去に濃淡はあれ政府の施策に懸念を表明した方々です。今回の任命拒否を許せば、政府の政策に批判的であったり反対するような学術研究が行われなくなるという恐れがあります。学問の進歩は過去を批判的に検証することから出発してきました。今回のように政府が恣意的な判断で特定の科学者を排除することは、学問の進歩、ひいては社会の発展を阻害するものではないでしょうか。
④ 今回は人文科学系の学者が狙い撃ちされました。ただでさえ予算配分が減少しているなか、このような行為により人文科学を志す人材が減ってしまうことが危惧されます。もちろん人文科学のみならず、権力の介入により自然科学の研究がゆがめられ、731部隊や生物化学兵器、原子力兵器の開発など負の歴史を生んだ教訓を忘れてはなりません。

多くのみなさんにとって「学術会議」はあまりなじみのない存在かもしれません。反知性主義や、ポスト・トゥルース※の時代といわれる今、科学に対する信頼がゆらぎ客観的事実に対する懐疑がひろがっています。私たちは多様な人びとが互いに尊重しあう、平和で公正な社会に価値観をおくものです。そのためには表現の自由や学問の自由はきわめて重要です。
日本学術会議は貧困と格差是正の提言や軍事研究に関与しない宣言などを表明してきました。この会議が権力から独立し、科学者の視点から日本と世界の発展に寄与する組織であるために、今回の任命拒否の撤回を強く求めます。


※ポスト・トゥルース
世論を形成する際に、客観的事実よりも、むしろ感情や個人的信条へのアピールの方がより影響力があるような状況