「助けあいの関係が育つ場」八王子保健生協:comcom1月号

お母さんたちがつくるおむすび弁当をお届け

東京都八王子市にあるUR館ヶ丘(たてがおか)団地は、1975年に建設された総戸数2848戸の大型団地です。高齢化率は52%(2016年6月現在)。ここに八王子保健生協が八王子市から受託して運営する「八王子市シルバーふらっと相談室館ヶ丘(2011年開設、以下、ふらっと相談室)」があります。ふらっと相談室にはカフェが併設されており、毎月のべ1000人が訪れます。詳細は、2014年8月号の「協同のある風景」で紹介しています。また、医療福祉生協連の理論誌「Review and Research」vol.3でもとりあげています(「まちづくりと医療福祉生協の可能性―八王子市ふらっと相談室館ヶ丘の実践から―」)。

2年半ぶりに再登場を願ったのは、住民が普段から利用する団地内唯一のスーパーマーケットが閉店するという情報が編集部に届いたためです。さっそく現場を訪れました。

過去の経験が自信に

ふらっと相談室
2016年7月、突然閉店の告知が張り出されました。張り紙には「8月28日で閉店します」の文字。団地内には外出困難な人が多く住んでいます。うわさでは新しいお店がオープンするのは11月末、それまでのあいだ困る住民がたくさんいる。団地住民とふらっと相談室に何ができるのか…。住民から出された案は「弁当をつくろう!」でした。いうのは簡単ですが、いざ実行となると材料は?誰がやる?場所は?など、いくつもの課題があります。

しかし、住民には絶対の自信がありました。なぜなら、2012年以来、毎年「おむすび計画」を実施してきた経験があるからです。ボランティアが高齢者のお宅を訪問したり、団地の各所で冷たい飲み物を配り、熱中症の注意喚起を呼びかける。さらには住民間のつながりづくり、多世代交流を目的としておこなう様々な地域活動は「おむすび計画」と呼ばれ、ふらっと相談室が地域住民と同じ目線に立ち、一緒につくり出したものです。材料は住民らによる寄付でまかなわれています。10kgの米袋からビニールに入れた1合のお米まで、毎年200kgを超えるお米が集まります。お母さんたちがお昼ごはんとしてつくったおむすびを、高齢者から小さな子どもたち、認知症を抱えた方、外国人や障害者まで、様々な立場の参加者が一緒になって、食べながら顔の見えるつながりの必要性を伝えてきました。

秋のおむすび計画が始まった

お弁当の提供

スーパー閉店から1週間後の9月5日、「秋のおむすび計画」と名づけられたお弁当の提供がふらっとカフェで始まりました。お弁当は毎週月・水・金に提供され、値段はついていません。お弁当を食べる方からのお気持ちをいただいています。ほとんどの人が懐具合に応じて支払うようです。用意する50食のお弁当は毎回売り切れます。

今泉靖徳さん

今泉靖徳さん

ふらっと相談室室長で八王子保健生協職員の今泉靖徳さんはいいます。「ふらっと相談室がおこなう活動ではなく、住民自身の活動としてすすめていきたかったというのが本音です。住民にとって大切なのは『ふらっと相談室があって良かった』ではなく『助けあいがあってよかった』ですから。私の仕事は、場をつくって住民が一歩を踏み出しやすいような傾斜を付けること。この地域にあるつながりや住民の経験を生かし、住民が何を求めているかを探りながら、住民同士がもたらす刺激が、次の化学反応をおこすような傾斜です。その傾斜の先に医療福祉生協があれば、組合員も増えると思います。ふらっと相談室はただの場所です」。

お弁当を届けることで分かることがある

お弁当の配達

「こんにちはー。お弁当持ってきました。ちょっと顔見せてくれませんかー」。お弁当は自宅配達もOKです。本人が希望した場合はもちろん、気になる人に弁当を配達することもあります。ケアマネジャー・ホームヘルパーなどの専門職、近隣住民からの情報提供に加えて、スーパーマーケットの閉店による買い物難民の急増を見越して、ふらっと相談室が独自に作成した「リスクチェック表」により、気になる人を抽出することもあります。支援者の有無やコミュニケーションの度合いなどにより状態を数値化することで、リスクを把握します。チェック表を片手に9月は100軒近くの家を訪れてお話を聞きました。全員に会えるわけではありません。そのうち会えたのは40軒程度です。来る日も来る日も足で稼いだ情報にもとづくリスクを分析すると、あるポイントを超える人のリスクが高いことが分かってきました。

リスクチェック表

リスクチェック表

「あの人は家族と同居しているから大丈夫」。通常、家族と同居していることは安心という判断につながります。しかし、身体的・金銭的虐待など、家族と同居することがリスクとなるケースもありますし、家族と住んでいても自宅内で孤立していることもあります。

普段とびらを開けてくれない人でも、お弁当を届けることで顔を見せてくれる人もいます。実際に訪問し、話したり、見たりする中で得られる情報の収集にお弁当が一役買っています。

地域包括支援センターとの連携

地域包括との打ち合わせ

「今日、○○さん来ました?」「朝から何回も来てるよ。ついさっき出て行ったけど、会わなかった?」

ふらっとカフェにはホームヘルパーやケアマネジャーが、情報を求めてやってきます。また、地域包括支援センター(以下、地域包括)と定期的に情報交換の機会を持つなど、介護保険事業所との関係を大切にしています。

地域包括との打ち合わせの一場面です。今泉さんがリスクチェック表で抽出した気になる団地住民のリストを広げます。情報がびっしりと書き込まれた何枚もの用紙を地域包括の職員が確認して「この方、昨日入院しました」「この人は定期的に娘が来ているので大丈夫」などの情報が加えられます。一方で、地域包括が把握していなかった住民の情報がふらっとカフェから提供されることもあります。ふらっとカフェと地域包括、お互いが持つ情報を交流しながらの打ちあわせは、ケース会議に発展することもあるようです。

ふらっとカフェには介護保険サービスで得られた情報を、地域包括には住民のくらしから得られた情報を伝えあうことで、双方が抱え込むのではなく、支えあう関係が生まれています。

水谷さん(理事)ふらっとカフェオープン当初からかかわる水谷徳子さん(理事)
大阪府豊中市で社会福祉協議会の助け合い活動をおこなってきました。8年前に八王子に引っ越してきて最初のうちはのんびり過ごしていました。あるとき、八王子保健生協の研修会に行く機会があり、医療と介護と地域が一体になることができる魅力にひかれ飛び込みました。認知症の義母の介護で苦労して、隣近所の力の必要性を痛感しました。困ったときはお互いさまです。

人がつながる場

パンの販売

「こんにちは、できたてのパンいかがですか」。ふらっと相談室では、お弁当のほかにもパンが販売されています。パンは近隣にある障害者作業所でつくられたもので、作業所の方々が水曜日を除く平日に販売に来ます。パンは種類が多く、どれもおいしいので団地住民はもちろん近隣から買いに来る人もいます。

「今日もパン買ってくよ。何かあったら助けてくれる人がたくさんいるから、困ったらおいで。風邪ひかないようにね、がんばってね」。常連さんが、販売している女性に声をかけます。

今泉さんがそっと教えてくれました。「あの常連さん、たぶん認知症で。昨日もちょっとした騒動があったばかりです。世間的には支援される側と思われている認知症の人が、障害者と呼ばれている人のことを気にかけている。それぞれの人にそれぞれの関係があり、そのどれもが尊い。人と人とのつながりで成り立つ生協の姿って、こういうことなんじゃないかな。私やふらっと相談室が何かをやっているわけではありません。住民同士がふらっと相談室という場を通じてつながりあっていく。居場所というと何か新しいものをつくる必要があると思う人がいるかもしれませんが、今あるものや制度を使って場をつくることが大切な気がします」

文:江本淳(会員支援部)
写真:鈴木俊介

<八王子保健生協>

●設立年月日  1984年12月
●組合員数   6,889名
●出資金    2億7677万円
●支部・班数  15支部
●事業所数   病院1 医科診療所1 関連事業所14

※2016年10月31日現在