「地域の縁側という「場」 いきいきカフェ」福祉生活協同組合いきいきコープ:comcom12月号

いきいきカフェカフェができる前から「いきいきコープ」の組合員だった渡辺恵子さん(写真中央)は、私たちが子どもをみてあげられれば、お母さんの息抜きができると語ります

福祉生活協同組合いきいきコープ(以下、「いきいきコープ」)は、2016年8月に医療福祉生協連に加入した福祉事業を専門におこなう生協です。2002年に地域購買生協である生活協同組合ララコープの支援を受けて設立。ララコープのくらし助け合いの会を発展的に解消し「いきいきコープ」が引き継ぐ形で事業がスタートしました。地域購買生協が福祉事業をおこなう場合、生協内部に福祉部門を設置したり社会福祉法人を立ち上げるのが通常です。「いきいきコープ」のように別の福祉専門生協をつくるケースは全国的に珍しいといえます。

福祉事業として実施しているのは訪問介護・デイサービス・居宅介護支援の3種類。加えて家事や育児を支援する「ファミリーサポーター派遣」、庭木の手入れや障子の張替えなどをおこなう「いきいきたすかる隊」などの生活支援事業、組合員・配偶者とそれぞれの二親等者までを対象とした生協葬「虹(イリス)」などの事業をおこなっています。

いきいきカフェ

広がる理由「自分たちだけではできないから」

2025年を見据えて地域につながりの種をまく必要がある。そのために人々が集まる場所が必要と判断した「いきいきコープ」は、理事会での数度にわたる議論を経て、事業所がない諫早(いさはや)地域に「まちの保健室」のような場所をつくることを決めました。経営的に成り立たないことがあらかじめ分かっている事業を実施するのですから、理事会では厳しい意見が出されました。

カフェのすぐそばに住む小林チエミさんは、中途視覚障害です。カフェに来るまではひきこもり生活でしたが、カフェで近所の人と知り合い、声を掛け合える間柄になることで、再び外出する生活を取り戻しました

カフェのすぐそばに住む小林チエミさんは、中途視覚障害です。カフェに来るまではひきこもり生活でしたが、カフェで近所の人と知り合い、声を掛け合える間柄になることで、再び外出する生活を取り戻しました

実施を決めた後、諫早市社会福祉協議会に関係団体とのコーディネートを依頼しました。2015年7月のことです。社会福祉協議会の協力を得ながら開設地域と物件の選定、行政・NPO・教育機関への事業説明と協力依頼、関係地区団体との意見交換会、地元老人クラブ連合会・ボランティア連絡協議会・認知症家族の会・地域包括支援センターなどへの協力依頼と話がすすみました。9月末日には「寄合い所諫早(仮称)」運営協議会が設立され、10月5日にはプレオープン。何度かのテスト運営と地元自治会への協力依頼などを経て、12月には名称が「いきいきカフェ(以下、カフェ)」に決定し、設立祝賀会には地域住民、市長、市議会議長、教育委員会、自治会長、社会福祉協議会、民生委員、大学関係者など60人が集いました。

運営主体に地元自治会を含む数多くの団体が参加し、7月に決定、10月プレオープン、12月本格始動というスピード感を生み出した秘訣は、社会福祉協議会との協力関係の下で最初からすすめてきたことにより、行政や地元自治会との関係づくりがスムーズにおこなわれたことにあります。

中川原芳紀さん

中川原芳紀さん

常任理事の中川原芳紀さんはいいます。「日常生活圏内に医療・介護・予防・生活支援サービスなどを準備し、高齢者などがワンストップで利用できるしくみの地域包括ケアを、生協単独でつくり出すことは無理です。行政、医療機関、社会福祉協議会などと連携を強め、そして何よりも組合員・地域住民の方々が小さな協力を大切にする協同の輪づくり、組合員の運営参加を強めていくことが大切です」。

中間的な場所、中間的な専門職

櫻木惠利子さん

櫻木惠利子さん

カフェは平日10時から16時まで開いています。カフェといっても、大げさなものではなく、見た感じどこにでもある一軒家です。家賃・水道光熱費は「いきいきコープ」が負担し、職員の櫻木惠利子さん(介護福祉士・ケアマネジャー)は佐世保事業所の所長を兼務しています。多い月で200人程度、コンスタントに100人程度(いづれも延べ数)の人が訪れますが、オープン当初は上手くいかないことがたくさんありました。

「オープンしてしばらくの間、私は動物園の檻に入れられた動物みたいなものでした。私が外で掃除していると住民の方が、通りすがりに『ここは何だ?あの人は誰だ?』という顔でチラッと見ていくのです。自治会や老人会は設立当初からかかわってくれていましたが、それでもやっぱり一歩踏み出すには勇気がいるようで、どの団体からも必ず『先遣隊(せんけんたい)』が派遣されてきて『ここは大丈夫だ』と確認した後に人がやって来ました」と職員の櫻木さんは笑います。

(左)民生委員・児童委員であり主任児童委員も務める嘉村喜美子さんは櫻木さんたちと小学校を訪ね、カフェを紹介してきました。主任児童員という立場から、子育て世代にも来てもらえるような場所になってほしいと願っています

(右)最近まで自宅と会社の往復生活だった田中敬子さん。通りすがりにチラッと見ては引き返しを繰り返しているうちに櫻木さんに声をかけられました。カフェを通じて地元の友達がたくさん増えました

カフェでは小物づくりなど、近隣の方を講師にした教室が開かれることがありますが、毎日何らかの教室が開かれることはありません。教室が毎日開かれていると習いごとに関心がある人しか来なくなり、ゆっくりしたい、ちょっと息抜きしたいという人が来ることができなくなってしまうのではないか、というのがその理由です。用事はないけど寄ってみる、あそこに行けば誰かいる、カフェはそのような場所です。公的な相談機関でもなく、ご近所さんでもない中間的な場所、そんな地域の縁側がカフェであり、住民同士のつながりの輪から一歩外にいる中間的専門職が櫻木さんです。

カフェがある地域は、ニュータウンとして数十年前に開発されました。当時のニュータウンも、ときが経つにつれシルバータウンに。住民が高齢化することでなくなっていった行事のひとつがお祭りでしたが、2016年の夏、カフェに集まる人たちのつながりで地域にお祭り(いきいきカフェ夏祭り)が復活しました。景品・材料集め、保健所への申請から買い出しまですべて住民自身がおこなった手作りのお祭りには、行政関係者や社会福祉協議会、看護協会などの団体からも参加がありました。カフェという「場」で育った関係が、お祭りという「場」を生み出し、お祭りという「場」がより大きな住民どうしのつながりをつくる、そんな循環が生まれました。

いきいきカフェ

事業の基本は組合員・住民の要求

本多秀子さん

自治会運営に携わる本多秀子さんは、小物づくりの先生です。「私も高齢者」と笑う本多さんですが、カフェで自分より年上の人から頼りにされることに喜びを感じています

カフェがある一軒家は2階部分が空いています。いきいきコープは当初、カフェが軌道に乗れば2階にヘルパーステーションを開設し、組合員・住民の居場所と介護保険事業所の一体的運営をめざしてきましたが、カフェの様子を見ているうちに別の思いを持つようになりました。介護保険で専門職が提供するサービスは、今後ますます認知症や中重度者へとシフトしていく、しかしカフェに集う人の要求はそこにあるのだろうか? この地域に最期まで住み続けたいという願いを実現するには介護予防や介護保険で拾いきれない困りごとを解決するような仕組みやサービスのほうが役に立つのかもしれない、と。2階部分の使い方は未定で、地域に貢献できる事業モデルを考えています。

諫早市が実施する総合事業にカフェを登録するかどうかについても、まだ決めていません。市の総合事業の詳細が決まっていないこともその理由の一つですが、介護保険制度の枠にはめること自体に議論が必要と考えているためです。

新たな事業展開も視野に職員主導でつくった場所、カフェ。そこに専門職を配置することで地域住民・組合員の新しいつながりが生まれ、そのつながりがお祭りのような新しい場所をつくり出す。そこを専門職が支えるという循環。居場所づくりのひとつの形を示しています。

文:江本淳(会員支援部)
写真:大村洋介

<福祉生活協同組合いきいきコープ>

●設立年月日  2002年10月19日
●組合員数   4,257人
●出資金    3,087万円
●事業所数   居宅支援2 訪問介護4 通所介護1 たすかる隊3

※2016年9月30日現在