「あの世、この世、その世」劇で伝える お互いさまの助け合い 新居浜医療福祉生協:comcom7月号

~家で死ぬということ~

「それでは、『あの世、この世、その世』のお芝居を始めます」。「劇団のぐち座」座長の野口幹代さんの軽快な語り口で、会場の愛媛県新居浜市の泉川公民館が笑いに包まれます。

劇団のぐち座

劇団のぐち座

 1/役柄がひと目で分かるように名札を下げて演じます
 2/座長の野口幹代さんのナレーションで劇が始まります

市との協同事業で舞台公演

野口幹代さん

新居浜市は、2014年度「在宅介護支援啓発事業」を公募しました。新居浜医療福祉生協はこの事業に応募し、住民参加型劇「あの世、この世、その世」が採択されました。

あの世(天国)のシーン、亡くなる本人や家族の意思を確かめるこの世のシーンなど、3幕で展開される劇は、「『この世』を浮き彫りにしつつ、死生観・人生観を共有することで、望む生き方(死に方)を考えるきっかけになる」ことを目的としています。

劇団のぐち座

脚本・演出を担当する野口さんは、ケアマネジャーの資格を持ち、現在は新居浜医療福祉生協のデイケアで働いています。「介護サービスを利用しながら、家族や近所の人に助けてもらって、最期まで家で生活できること、自分の最期は自分で決めていいんだよと、劇を観た人が気づいてくれたらいいなと思うんです」といいます。「死」をテーマにしながら、ユーモアにあふれた公演は好評で、3月までに各地の公民館で4回の公演を重ねました。市の事業が終了した今年度もあちこちから公演依頼があります。

劇団員たちで創意工夫

脚本から衣装、舞台の設置まで、劇はすべて手づくりです。劇団員の募集は、まず市の広報で一般公募をおこない、その後、交代要員も含めて職員も加わりました。天国のシーンに登場する男性を演じる高橋咲恵さんは現役の保育士として働きながら参加。神野正子さんは医療福祉生協の職員に声をかけられて出演を決めました。

高橋さん、神野さん、村上さん

初めて知り合った人たちが一体になって、劇を創り上げていきます。セリフは練習を重ねるたびに演者のみんなで意見を出し合い、自分たちの生活の言葉で語るようになりました。「親父、あっちに行ったら、お母さんによろしくな」「これまで家で一人でがんばってきたけん、もうがんばらんでええからね」と、感情をこめた言い回しと時折混ざるアドリブで、観客の笑いと共感を誘います。

「この世」で生きる囲碁教室の先生(男性)役を演じる村上サチ江さん。亡くなるシーンで笑いと拍手が起きます。「若い子が死んだら悲しいけど、90歳を超えた役だからね。この年が来てやっとあの世にという思いを表現できるように、セリフに気持ちをこめるんですよ」と話します。「地域包括ケアなんてエラそうにいわんでも、お互いさまの助け合いやでぇ」「なぁ、最期まで家におれて良かった、良かった」というセリフで終幕。会場は、大きな拍手で包まれました。

最期を迎えるシーン

客席から思わず拍手が

 3/主人公の囲碁教室の先生が、家族や医師に見守られて最期を迎えるシーン
 4/ユーモアあふれる演技に、客席から思わず拍手が
 5/準備も後片付けも自分たちの手で

感動と共感の声、続々

今回の劇の公演は、泉川校区老人クラブが企画しました。公演後に、「良かったですね。主体的にかかわることの重要性や、登場人物に自分自身を投影して共感したり、感動するんでしょうね。こうした人生を送りたいという願いは、誰もがありますからね」と感想を語ってくれました。

観劇した地域の方からも「新居浜弁が良かったですね。とても親しみが持てました。死後の世界を表現した『あの世』、『この世』で多くの人が家族を守っていく姿には、非常に考えさせられました」など、たくさんの反応が寄せられました。

劇中、亡くなる本人の希望や家族の思いをまとめていく、ケアマネジャー役を熱演していたのは、佐々木龍理事長です。「これから、もう少し役者を増やして、増える公演依頼に対応できるようにしたいですね」といいます。

「劇団のぐち座」のみなさん

「劇団のぐち座」の公演

 6/「劇団のぐち座」のみなさん
 7/新居浜弁のセリフに笑いがあふれます
 8/「あの世」から「この世」に声をかけるシーン

助け合いと自立の支援

新居浜医療福祉生協の演劇を通じた行政との協同は2010年からです。新居浜市の「認知症高齢者SOSネットワークづくり」事業に採用され、地域包括支援センターと認知症高齢者に声かけできる人を養成するための「認知症フォーラム」を実施しました。「認知症フォーラム」では、認知症とは何か? 認知症の方にどう対応すればいいかを、演劇を通して分かりやすく伝えます。このとりくみが評判を呼び、事業が終わっても公演依頼は続き、昨年はテレビのニュースでも取り上げられました。

2つの劇の脚本を手がけた野口さんは、「高齢になると、家族が決める、ケアマネジャーが決めるということがよくありますよね。でも、自分で決めていいし、自分の気持ちをいっていいんだよと、劇を通して伝えたいんです」と力をこめます。

一人ひとりを大切にし、それぞれの考え方を認め合い、お互いに助け合って自立しながら「いのちとくらし」を自分たちで守ること。新居浜医療福祉生協の活動が大きく広がっています。

(編集部)
写真:中村香代

 

<新居浜医療福祉生協>
●設立年月日 1974年6月1日
●組合員数  8,745人
●出資金   2億3,916万円
●支部・班数 10支部 442班
●事業所数  診療所3 介護事業所21 鍼灸院2

※2015年3月31日現在