「おとこ介護もいいんだに」 上伊那医療生協:comcom2月号

「おとこ介護もいいんだに」の忘年会

「ジューッ」という音と、卵焼きのおいしそうなにおいが部屋中に広がります。12月3日、長野県伊那市にある社会福祉協議会の施設「福祉まちづくりセンター」で、男性介護者と支援者の集い「おとこ介護もいいんだに」の定例会が開かれました。

2011年に始まり、毎月第1水曜日に開催している定例会は今年で4年目を迎え、息の長い活動になりました。14年最後の今回の集まりは、忘年会。参加者が手巻きずしを作って、料理の腕を振るいます。

講演会がきっかけに

この会の呼びかけ人は、上伊那医療生協の老人保健施設「はびろの里」事務長の古畑克己さん。きっかけは、11年9月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を主催する立命館大学の津止正敏教授を招いて講演会を開催したことでした。参加していた行政や社会福祉協議会の職員たちと、「男性介護者の会をつくろう」という話になり、古畑さんが事務局を引き受けてスタート。会の名前は、伊那市がある長野県南部の通称「伊那谷(いなだに)」から取って「おとこ介護もいいんだに」と、参加者がつけました。

参加者が料理を手作り

1/伊那市社会福祉協議会の「福祉まちづくりセンター」 2/手巻きずし用の刺し身を慣れた手つきで切る
3/参加者でそれぞれの介護体験や悩みを語りあう 4/この日の料理はみんなで手作り

地域包括支援センターや社会福祉協議会もいっしょに

大村妙子さん、古畑克己さん

会には、伊那市と南箕輪村(みなみみのわむら)の地域包括支援センターの職員も参加しています。「市や村が呼びかける介護者の会は以前からありましたが、参加者のほとんどが女性で、男性にどう参加してもらうかが悩みどころでした」と、伊那市地域包括支援センターの「みすず支援センター」職員・大村妙子さんはいいます。「介護していると、家の中にこもりがちになってしまいます。特に、男性介護者は一人で悩みを抱える方が多いので、どうしたらいいかと考えていたんです。男性だけの会は、とても良いアイデア。こういう集まりは貴重です。ケアマネジャーの連絡会でも紹介しています」

人と話すことがいい

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奥さんの介護をしている山川茂樹さんは、ケアマネジャーの紹介で参加するようになりました。「生活は変わらないんだけどね、ここに来ると心が癒やされるんです。今まで誰にも話せなかった苦しみがね、ここで話すことで解決できるんですよ」と思いを語ります。

原利一さんは、95歳のお母さんと二人暮らし。今はまだ大丈夫ですが、介護が必要になるときがくるかもしれない。そうなったら困るからと参加しています。「ここには、仲間がいるから安心できるんです。話も聞けて参考になるし、自分一人じゃない、孤独じゃないんだと思えるんだな」

林剛さんは、奥さんを3年半介護し、自宅で看取りました。「家での経験を話すことで、参考になったといってもらったり、人の話を聞いて、なるほどなぁと感心することがあったりね。それがいいよね」。林さんは、料理も洗濯もやったことがなかったそうです。「僕らの時代は、『男は台所に入っちゃいかん』っていわれたんだよね。家内も僕が台所に入るのを嫌がったから、何もしなかった」と振り返ります。介護をするようになって料理を始め、今では見事な卵焼きを披露するほどの腕前になりました。

母親を3年間介護し、看取った小林清人さん。「自分と同じように苦しい思いをしている介護者の悩みを聞くことはできるし、実体験を話すことで役に立つことがあるかもしれない」と、最近では頼まれて、多くの人が集まるシンポジウムでご自身の介護体験を発表することもあるそうです。

老人保健施設「はびろの里」にも変化が

地域のために何かしたいと男性介護者の会を始めたことで、変化が生まれたと古畑さんが説明してくれました。「地域包括支援センターと協同してとりくんだことで、行政と信頼関係を築けました。また、要介護者のご家族から直接お話が聞けるのは、施設の事務長として地域への視野が広げられるすばらしい学びの場です」

それまで在宅復帰率が10%前後だった老人保健施設「はびろの里」。12年度の介護報酬改定に向け、「在宅復帰の強化をめざす施設にかじを切ろう」と方針化しました。ちょうど同じ時期にスタートした男性介護者の会。「地域貢献・協同のとりくみと、同施設がめざすあるべき地域包括ケアの方向がかみ合ってきました。偶然でしたが、とてもいいタイミングでした」と、古畑さんは当時を振り返ります。こうして同施設の在宅復帰率は現在、60%を維持するまでになりました。

今回、はびろの里の若い職員2人が初めて参加。「参加者の話を聞いて、家で介護している人はこういう気持ちなんだなと、とても勉強になりました」と北原友佳さんは語ります。相談員の伊藤彩織さんは、「男性が外に出て、心のよりどころになる場所があることは大切だと感じました」といいます。

算定月の前6か月間の退所者総数のうち、当該期間内に退所し、在宅で介護を受けることになった者(当該施設での入所期間が1か月超の者に限る)の占める割合

調理から配膳まで協力し合って
若い職員2人が初めて参加

5/手作りの手巻きずしとノンアルコールビールで「いただきます」
6~8/調理から配膳まで協力し合って
9/初めて参加した「はびろの里」の職員・北原友佳さん(左)と相談員の伊藤彩織さん(中央)

介護者カフェができたらいい

「こういう会が、あちこちにできたらいいと思うんです。男性介護者が集まれる場は、まだまだ少ないんですよ。さらに、月に1回ではなくて、日常的にふらっと寄れるような『介護者カフェ』ができたらいいでしょうね」と、古畑さんは今後の夢を語ります。

津止教授は、「『おとこ介護もいいんだに』のような活動は全国に広がっています。一人で介護を抱え孤立しがちな男性介護者にとって、同じ境遇の仲間と出会える貴重な場。苦しいのは自分一人じゃないと共感し合える活動です。身近なコンビニのように、各地で数多くの活動が始まればうれしい」と、全国の男性介護者にエールを送ります。

(編集部)
写真:中村香代

<上伊那医療生協>
●設立年月日 1988年10月30日
●組合員数  2万2,823人
●出資金   8億9,522万5,000円
●支部・班数 22支部 165班
●事業所数  病院1 医科診療所1 介護関連17(在宅訪問診療所1含む)
※2014年12月17日現在