支え合いを通じて「協縁」がうまれる 反貧困ネット長野(長野医療生協):comcom11月号

きずな塾

「このへやは しずかに べんきょうをするところです」。こう書いた紙が貼られている壁の向こうから、声が聞こえてきます。

「この問題は、さっきと同じパターンで足せばいいんだよ。次はXの二乗だから…。そうそう、それで答えが出るんじゃないかな」

ここは、無料の学習支援活動「きずな塾」。長野医療生協が事務局を務める「反貧困ネット長野」が運営しています。

貧困の連鎖を断ち切りたい

2008年、リーマン・ショックの影響から全国的に派遣切りが横行し、年末には「年越し派遣村」がとりくまれました。長野県でも、多くの行き場のない人がうまれました。翌年、長野市を中心とする地域で生活困窮者の相談・支援活動をおこなうことを目的に、10団体が集まって「反貧困ネット長野」が結成され、毎月定例で「何でも相談会」がスタート。最初は、住むところがない、今日の生活が大変といった人々からの相談がほとんどでしたが、2年目からは発達障害などの生きづらさを抱えた人たちからの相談が増えるなど、風向きが変わり始めました。

ある日のこと。女性から「来春、子どもが小学校に入学します。ですが、入学前に用意しなければならない衣類がどうしても準備できない」と相談がありました。そこで、長野医療生協の職員に衣類の提供を呼びかけ、無事に渡すことができました。この相談を通じて、「相談会に来るのは大人が中心。では、子どもはどういう状況なんだろう」と、子どもの貧困を強く意識するようになった反貧困ネット長野のメンバー。貧困の連鎖を断ち切るためには学習支援が必要との結論に至り、12年8月に無料の学習支援活動「きずな塾」をスタートさせました。

経済的に困窮している家庭の子どもたちが勉強できる場所として「きずな塾」をスタート! ・小学生から高校生まで、誰もが参加できる「きずな塾」。子どもが希望する学習内容に合わせて、元教員や大学生などのボランティアサポーターが丁寧に教えます

「助けて」といっていいんだよ

きずな塾は月3回、金曜日の17時30分から2時間開かれています。会場は、長野医療生協の介護事業所が入っている「長野中央介護センターつるが」の1階にある「地域交流室 陽だまり」。名前の通り、大きなガラス戸から太陽の光が降り注ぐ場所です。利用の条件は設けておらず、誰でも利用できます。長野中央病院小児科外来、社会福祉協議会、児童センターなど、子どもや親が集まりそうな場所にチラシを置き、町会の回覧板でもお知らせしました。当初は4~5人の参加でしたが、半年ほど経ったころから子どもが集まり始め、今では常時10~15人が利用しています。

反貧困ネット長野・事務局長の宮﨑ようこさん

長野医療生協の職員で反貧困ネット長野の事務局長を務める宮﨑ようこさんはいいます。「最初は、経済的困窮が原因で学習塾に通えない子どもたちの利用を想定していましたが、きずな塾に来ること自体を必要としている子どもがいることが分かってきました。家庭が、勉強できる環境ではない、安心できる居場所ではない子どもがいます。経済的に困っていなくても、ゆとりを持って子どもに接することが難しい親の元でくらしている子どもがいます。ここが安心できる場所ということが大切なんです。貧困=経済的困窮と狭く見ていましたが、人や社会とのつながりという広い視野で貧困を見ていくことが重要だと実感しています。孤独は貧困をますます深刻化させます。孤独は致命的です。子どもたちには、きずな塾で出会う大人たちと交流する中で、『助けて』をいえる土台を築いてほしい。困ったときは、『助けて』といっていいんだと分かってほしいんです」

無料の学習支援だけでなく人とつながり交流できる子どもたちの居場所としても活躍 ・取材日は夏休み中で、みんなでお昼ご飯づくり。子どもたち同士が交流できる、学校とも塾とも異なる居場所です

誰もが関係づくりサポーターに

きずな塾・塾長の角勝弘さん

元教師、主婦、大学生、長野医療生協職員など20~70代までの大人60人が子どもを支えています。法律事務所に勤務する塾長の角勝弘さんは、きずな塾では子ども同士だけでなく、大人同士の縁も結ばれているといいます。

「子どもがつながっていくおかげで、私たち大人もつながっていけます。東日本大震災の被災地支援の現場でも指摘されていますが、特に男性は自分から積極的にかかわりを持つことが苦手なようです。しかし、子どもに勉強を教えたり、子どもといっしょに体を動かしたりする中で、自然にコミュニケーションが増え、道で会ったらあいさつするような間柄になります。きずな塾では、大人が子どもを一方的に助けているのではなく、子どもに大人が助けられている部分が相当ありますね」

きずな塾に携わる大人たちの声をご紹介します。

「勉強だけじゃなく、自分の趣味などを話してもいい場所なんだと感じてもらいたい。居場所や勉強できる場所があることは幸せなこと。こんな場所がもっと普及したらいいなと思います」(20代男性:職員・介護福祉士)

「子どもたちがとてもかわいい。息子が小学生のころ、宿題を優しく教えてあげなかったことを、とても後悔しています。きずな塾で教えることが自分の癒やしになっている。参加させてもらってありがたい」(金融関係を定年退職した男性)

きずな塾に参加する誰もが「関係づくりサポーター」。支え合いを通じた「協縁」がうまれています。

異世代のつながり・子どもから高齢者までがいっしょに過ごす空間。異世代がつながりあうことで、「協縁」をつくり出しています

きずな塾はまちづくりの一環

「長野中央介護センターつるが」、浅川支部・支部長の小林さん

きずな塾のスタート当初からかかわっている、浅川支部・支部長を務める元教師の小林啓子さんに、今後についてお伺いしました。

「孤立する傾向にある母子家庭などに、きずな塾のことを知ってもらいたい。子どもが安心して過ごせる場所が必要であるにもかかわらず、きずな塾の情報が届かないなど、ここにたどり着くまでに多くの困難を抱えている子どもがたくさんいます。そうした子どもたちに、こちらから近づいていくことが課題です。これを解決するには、支部や行政、民生委員のみなさんとのさらなる連携が必要です。きずな塾はまちづくりの一環ですね」

里庵
反貧困ネット長野の相談活動から、きずな塾とは別の居場所もできました。その名は、フランス語で絆を意味する「里庵(リアン)」。障害を抱えた人などからの相談が増える中で、自然と始まった交流会です。仕事に就けない、行くところがないといった人々が集まり、いっしょに食事をして、一日を過ごします。料理教室、お金の使い方教室など、社会性を身に付ける講座も実施。長野県の「生活困窮者の『絆』再生事業」を利用して、センター開設・運営しています。
開設から2年が経ち、今年7月には200人を超える人が利用するまでに。長年引きこもりだった人が、里庵に来るようになって少しずつ社会と結びつき、仕事に就くなど、つながりを取り戻す場所になっています。

(編集部)
写真:大村洋介

 

長野医療生協
●設立年月日 1961年8月26日
●組合員数  6万1,703人
●出資金   15億3,600万円
●支部・班数 48支部 415班
●事業所数  病院1 医科診療所2 介護関連8
※2014年7月31日現在