無いものはつくればいい 困難はともに解決すればいい NPO法人すずか希望の里/みえ医療福祉生協:comcom10月号

―支部が中心となりNPO法人を設立―

今回の舞台は、三重県。地域住民から寄せられた声を解決するため、みえ医療福祉生協の支部が中心になって、介護事業を実施するNPO法人を設立・運営しているとりくみをご紹介します。

多機能施設「希望の里たんぽぽ」

「面倒なことを持ち込まれても…」から始まった

津医療生協(当時)は、600人の組合員がいる鈴鹿市と亀山市で支部づくりにとりくんでいました。鈴鹿の「鈴」、亀山の「亀」をとって名付けられた鈴亀(れいき)支部が結成されたのは、2003年のこと。鈴亀支部は病院や介護施設などの事業所から遠く離れた地域のため、公民館で支部運営委員会をおこないながら、少しずつ支部の形を整えていきました。支部活動をする中で、組合員同士がつながることができる場所が必要だと感じ、可能なら事業所を併設したいという想いが募りました。

支部活動が広がるにつれ、「一人暮らしのお年寄りが亡くなった」「老々介護で疲れ果てた」「申し込んで3年になるが、いつになったら特養に入れるのか」などの声が寄せられました。そこで支部が、「高齢者施設をつくろう」と地域の団体や個人に呼びかけたところ、想像以上に厳しい反応が返ってきました。「趣旨は分かるが、地域住民だけで施設をつくれるのか」「医療福祉生協が責任を持ってやるんだったら応援するけど…」といった意見や、あからさまに「面倒なことを持ち込まれても困る」という態度の人もいました。

一度は頓挫しかかった運動でしたが、支部結成から2年後の05年11月、半年ほどの調整期間を経て鈴鹿市・亀山市の住民で「高齢者施設をつくるみんなの会(以下、みんなの会)」を結成することができました。会長には、津生協病院に勤務する医師の林友信さんが就任。「津医療生協の副理事長をしていたこともあり、最初は断ったんですけどね(笑)。医療福祉生協で事業所をつくるということも考えましたが、当時は病院の経営改善が最優先課題でした」と、林さんは就任当初を振り返ります。

「みんなの会ニュース」を発行し、開設に向けた討議の内容や進行状況などを知らせました 林さん、菅谷さん、三輪さん

一難去ってまた一難

会長の林さんをはじめ、事務局長に鈴亀支部運営委員の三輪憲司さん(現・みえ医療福祉生協理事長)、事務局次長に鈴亀支部支部長の菅谷芳則さんなど、医療福祉生協の組合員・職員が深くかかわって設立した「みんなの会」はさっそく、鈴鹿・亀山両市への聞き取り、施設見学会、建設予定地探し、福祉経営セミナーへの参加などの行動を開始。社会福祉法人を設立し、地域密着型サービス()の「小規模多機能型居宅介護」「認知症対応型通所介護」を運営すること、民家を改修して集いの場を併設した小規模デイサービスを整備することをめざしました。

施設の実現に向け、会員の拡大、資金集め、法人設立準備と計画は順調にすすむはずでした。建設予定地を確保し、泊まり・通い・訪問ができる「小規模多機能型居宅介護」の受託に名乗りを上げるまでは計画通りでしたが、鈴鹿市から受託事業者として選ばれなかったのです。小規模多機能はダメだった。ならば次の手だと、泊まりをショートステイ、通いをデイサービス、訪問をホームヘルプで対応する事業所をつくることに方針を転換。事業主体として、NPO法人の設立準備に入りました。

こうして、みんなの会結成から2年後の07年10月、「NPO法人すずか希望の里」を設立し、翌春の施設開設をめざすことに。理事長には、みんなの会副会長の中川一春さんが就任しました。今度こそうまくいくはず…でした。

次なる問題は、建設予定地。建物と既存の道路を結ぶための道路である「取り付け道路」が建築申請期限までに取得できないことが判明しました。しかし、ここでギブアップするわけにはいきません。いろいろと探した結果、組合員が営んでいた民宿と土地を借りることができ、ショートステイ、デイサービス、ホームヘルプ、居宅介護支援(ケアマネージャー)、地域交流ホールを備えた多機能施設「希望の里たんぽぽ」を09年に開所。13年には、隣地にサービス付き高齢者向け住宅もオープンしました。

地域密着型サービス
市町村が事業者の指定や監督をおこない、住み慣れた地域で生活ができるように創設されたサービス体系。小規模多機能型居宅介護、認知症対応型通所介護のほか、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、グループホーム、小規模な特別養護老人ホームなどがある。

サークル活動が発展しいまでは介護予防事業の運営までお手伝い。協同の力を存分に発揮しています ・希望の里たんぽぽ内に、サークル活動などに利用できる地域交流ホールを設置。地域住民の集まる場を提供しています

NPO法人すずか希望の里・理事長の中川一春さん

組合員の居場所ができた

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「組合員が集まる場所が欲しい」から始まった、施設建設運動。施設が建った今、組合員活動との関係はどうなっているのでしょうか。みえ医療福祉生協組織部の大東友巳さんに聞きました。

「希望の里を会場にして健康まつりを開催したり、鈴鹿支部(鈴亀支部を、鈴鹿支部と亀山支部に分割)の運営委員会や機関紙の仕分け、班会もやっています。ここでは市から受託した介護予防事業やサークル活動もおこなわれています。今後、介護予防事業の参加者などに、医療福祉生協が培ってきた保健予防活動のノウハウを伝えていきたいと思います」

NPO法人すずか希望の里には、建設運動にかかわったメンバーのサークル活動が発展した「たんぽぽフレンドクラブ」があります。社会福祉協議会のボランティア団体として登録され、すずか希望の里が受託した介護予防事業の運営に大きな力を発揮しています。

ボランティアサークルでまとめ役をしている羽田(はだ)徳子さん(現・みえ医療福祉生協理事)はいいます。「たまたま編み物の先生がいて、サークル活動が始まりました。自分たちだけではもったいないので、デイサービスの利用者さんといっしょに編み物をしようということに。そのうち、介護予防事業の運営のお手伝いもするようになりました。ボランティアサークルには、70・80代の方もいます。人生の先輩がたくさんいるので、『自分もこんなふうに素敵に年齢を重ねたいな』と思います。基本は、『私が楽しむこと』。人のためにという精神では長続きしません。ボランティア活動を通じて医療福祉生協の組合員になる人もいます」

com_c_201410_07 ・希望の里たんぽぽは、「通って、泊まって、訪問も」できる多機能施設。2013年にはサービス付き高齢者向け住宅もオープン。困ったときの駆け込み寺として、地域住民が安心して、自分らしく生きたいという願いに応えています

自分たちで動いてみる

希望の里たんぽぽの開所を受け、亀山市でも高齢者施設を望む声が。2011年に特別養護老人ホーム、デイサービスなどを備えた「野村きぼう苑」が開設されました

希望の里たんぽぽの開所を受け、亀山市でも高齢者施設を望む声が。2011年に特別養護老人ホーム、デイサービスなどを備えた「野村きぼう苑」が開設されました

医療福祉生協の支部や組合員が、地域の個人・団体と力を合わせて法人を設立して事業をおこなうスタイル。これは鈴鹿市にとどまらず、みえ医療福祉生協のいくつかの支部や地域に広がっています。亀山市では、みんなの会が社会福祉法人を設立して小規模特養を建設しました。桑名市では、生協の退職者を中心にNPO法人を設立して来春の事業開始をめざします。名張市でもNPO法人を設立して、小規模多機能施設を建設します。

「診療所をつくってほしい、介護事業所をつくってほしいという声をよく聞きます。本当に必要なものならば、自分たちでつくればいい。そのために知恵がある人は知恵を、お金がある人はお金を、体力がある人は力仕事を…と、力を寄せ集めればいいんです。解決できない困難があれば、自治体や地域住民などに実態を訴えて、ともに解決に向かう。誰かが動くのを待つのではなく、まずは動いてみる。そのために医療福祉生協という仕組みを利用する。そういうことじゃないですかね」。運動に最初から携わっている三輪さんの言葉です。

(編集部)
写真:中村香代

 

<みえ医療福祉生協>
●設立年月日 2011年4月1日
●組合員数  4万784人
●出資金   11億7,357万8,600円
●支部・班数 57支部 279班(昨年度実績)
●事業所数  病院1 医科診療所7 介護関連31
※2014年3月31日現在