人がふれあう場をつくる ーつながりでくらしを豊かにー 八王子保健生協:comcom8月号

八王子保健生協
「八王子市シルバーふらっと相談室館ヶ丘」

自転車タクシー

チリンチリン。

自然に囲まれた団地を、緑色の自転車タクシーが走ります。スピードは人が歩くより少し早いくらい。遊園地の乗り物のようなかわいい姿でゆっくり走る自転車タクシーは、団地の人気者です。

ここは、東京都八王子市にあるUR館ヶ丘団地。1975年に建設された総戸数2848戸の大型団地です。ここで八王子保健生協が市から事業委託を受けて運営する「八王子市シルバーふらっと相談室館ヶ丘(以下、ふらっと相談室)」をご紹介します。

ゆっくり走る自転車タクシー

ふらっと相談室は、2011年5月に東京都がすすめるシルバー交番設置事業()のモデル事業所として開設されました。都内51か所でシルバー交番設置事業が実施されています(14年4月現在)が、ここならではの特徴があります。それは、ほかの相談室が地域包括支援センターなどの事業所に併設されていることが多い中、ふらっと相談室は地域の中で独立して事業をおこなっていること、「ふらっとカフェ」というコミュニティスペースを設置していることです。

シルバー交番設置事業
高齢者の在宅生活の安心・安全を提供するため、東京都が2010年度から実施している事業。区市町村が社会福祉法人などへ委託して相談員を配置し、地域に高齢者を見守る拠点を設けて高齢者からの相談受け付けや生活実態の把握、関係機関との連携、緊急通報システムを用いた見守りなどをおこなっている。

「場」をつくるという支援

カフェで1日限定10食が販売されている「たてがおかサンド」。コーヒーとセットで250円。一人暮らしの男性の食生活改善に貢献しようと、ふらっと相談室・団地内の魚屋さん・パン屋さんが協力して考案。

10年、八王子保健生協に八王子市からふらっと相談室開設の話がありました。同生協が運営する地域包括支援センター圏域に館ヶ丘団地があったからです。

気軽に相談室に寄ってもらえるようにと考えた主任の今泉靖徳さん(ふらっと相談室・室長)は、近隣に喫茶店がないことから、コミュニティカフェを併設することを提案。補助金を受けて、カフェ併設型の相談室がスタートしました。地元のコーヒー店から豆を仕入れ、手作業で丁寧に入れるコーヒーは1杯100円。カフェ併設のねらいは見事に的中し、今では毎日60人、月に1000人、年間1万2000人(いずれも延べ数)が訪れる場所になりました。

カフェと相談室が一体化した憩いの場

今泉さんはいいます。「最初は『カフェ併設の相談室』をイメージしていましたが、今では『相談室併設のカフェ』という感じです。カフェでの会話に耳を傾けていると、いろんなことが分かるんです。『あそこのばあちゃん、最近様子がおかしい』と心配する隣人の声、寒くなってくれば『ひざが痛い、腰が痛い』といった地域の動向が性別ごと、季節ごとに把握できます。カフェはこの地域の縮図です。気になる会話には入っていって、相談室の業務に結びつけることもあります。高齢者支援というと、訪問して困り事を聞くような、支援する側が出向くアウトリーチ型が話題になることが多いですが、集まりやすい場をつくることも大切な支援の方法です」

「館ヶ丘団地おむすび計画」が団地を動かす

ふらっと相談室がオープンした11年は、高齢者の熱中症がマスコミに大きく取り上げられた年。八王子市から熱中症を予防する補助金事業の依頼があり、近隣の大学に声をかけたところ75人の学生が集まりました。館ヶ丘団地は山を切り開いた29ヘクタールの広大な敷地にあるため、歩いても歩いても団地が続き、おまけに坂道ばかり。団地の入り口から一番奥まで休みながら1時間かけて歩いている高齢者もいました。そこで、坂道の途中に給水所を設けることに。学生が交代で給水所の当番をしました。平行しておこなったのが戸別訪問。1日当たり10~20軒、一軒ずつ首に巻くネッククーラーを届けながら高齢者宅を訪ね、くらしぶりを聞いて回りました。少しずつ、顔の見えるつながりができ始めました。

ところが、翌年は熱中症予防に関する補助金が出ませんでした。「お金がないんだから無理だ」という声がある中で、団地の自治会が実施することを決定。おむすびを持って高齢者を訪問しようとお米の提供を呼びかけたところ、10kgの米袋からビニールに入れた1合のお米まで、「お金は出せないけど、お米なら出せる」と150kgを超えるお米が寄せられました。お母さんたちが作ったおむすびを、中学生・高校生たちが高齢者に届けるなど、顔の見えるつながりがさらに大きく広がりました。この「館ヶ丘団地おむすび計画」をきっかけに、納涼祭で27年ぶりにおみこしが復活するなど、団地全体が大きく動き出しました。

熱中症予防事業「館ヶ丘団地おむすび計画」。今年も、住民に参加を呼びかけています。下は高齢者の自宅に届けたうちわ。裏面には子どもが絵を描きました

自治会の事業として 自転車タクシーを走行

自転車タクシー

冒頭で触れた自転車タクシーがやってきたのは、12年のこと。途中で休息しながら自宅に帰る高齢者の存在を知っていたふらっと相談室のみなさんは、「いつの日か、こんな乗り物で団地の高齢者の役に立てれば」とヨーロッパ生まれのかっこいいベロタクシー(1997年にドイツで開発された高性能な自転車タクシー)の写真を相談室に貼っていました。

ある日、その写真を見たUR都市機構の職員が、「いい補助金事業があります」と東京都地域ささえあい体制づくり事業を紹介してくれました。さっそく団地自治会と相談し、自治会が実施する事業として自転車タクシーが走り始めました。利用は登録制で、利用が1か月ないと自宅を訪問するなど、見守り機能も兼ねています。自転車のこぎ手は自治会役員やふらっと相談室のスタッフ、学生ボランティアが務め、年間3500人が利用しています。のんびり走る自転車タクシー。座席の後ろから、ちょうど良い距離感で「最近どうです?」とこぎ手の声が聞こえます。自然豊かな団地内をゆっくりと走る乗り手とこぎ手の二人だけの場で、「いや、実はね…」と相談が寄せられることもあります。

館ヶ丘団地では、自転車タクシーが住人同士のつながり合いに一役買っています

楽しまなければならない

館ヶ丘団地

カフェ、給水所、夏祭り、自転車タクシー…。様々な場所でたくさんの人生に触れてきた今泉さん。

「ふらっと相談室に着任する前は、通所介護の責任者をしていました。今振り返ると、介護保険の仕事しか見えていなかったですね。制度ありきの仕事。介護の現場にいれば仕方がない部分もあるのですが…。制度にくらしをはめ込むのではなく、くらしを豊かにするために制度を上手に利用する。すぐには難しいかもしれませんが、医療・介護の職場で働く専門職の人々がくらしから出発する視点を持つことで、仕事は大変でも楽しい現場にしていけると思います。ふらっと相談室に来て感じるのは、その人のくらしから出発することの重要性です。くらしの中で何よりも大切なのはつながり。人のつながりが、くらしを豊かにした物語をたくさん見てきました。くらしの場には、『○○しなければならない』という決まりは必要ありません。ひとつだけ挙げるとしたら、『楽しまなければならない』かな。苦労はありますが、結局は楽しいことの積み重ねですよ、地域がまとまっていくのはね」と笑います。

カフェ、自転車タクシー、今日も館ヶ丘団地では人が出会い、つながっています。

(編集部)
写真:大村洋介

 

<八王子保健生協>
●設立年月 1984年12月
●組合員数 6,608人
●出資金 2億7,583万円
●支部・班数 13支部
●事業所数 病院1 診療所1 訪問看護2 介護保険関連10 東京都シルバー交番事業1
※2014年5月現在