私たちには夢がある ─新生・奈良県医療福祉生協─:comcom10月号

2012年3月31日

東日本大震災、福島の原発事故…衝撃の年がやっと明けて、春がめぐってきたこの日。奈良県橿原(かしはら)市にある文化会館のホールで、新しい医療福祉生協が産声をあげました。奈良県医療福祉生活協同組合です。理事長に就任した仲宗根迪子さんの声が会場に響き渡ります。

「いつかは奈良県にも医療福祉生協を…。その夢がかないました!」

橿原市

「声をかけると、みなさん耳を傾けてくれます」と語る理事の木下さん

橿原市は奈良県のほぼ中央。京都駅から近鉄急行で50分ほど南下した地点にあります。1956年、奈良県下5番目の市としてスタートした時の人口は4万人弱でしたが、今日では12万人を超える人びとがくらしています。高度経済成長期、都市部の地価が高騰したために、より廉価な土地や家を求めて多くの人が移り住んできたのです。万葉の時代につながる大和三山(畝傍山(うねびやま)・耳成山(みみなしやま)・香具山(かぐやま))や藤原宮跡をはじめ、数多くの史跡がある橿原市は、時代の波の中で「旧くて新しいまち」になりました。いつかは奈良県にも医療福祉生協を…。その夢は、このまちで実を結びました。

いつの日にか

奈良県には、「市民生活協同組合ならコープ」をはじめとした地域購買生協や大学生協、労済生協など9つの生協によって奈良県生活協同組合連合会(奈良県生協連)がつくられています。組合員世帯は県内世帯の過半数を超えており、組合員総数は31万6千人を数えます。とくに24万8千人の組合員をかかえる拠点生協のならコープでは、「高齢化社会の到来と生協の役割」という問題と真摯に向き合い、熱心な議論を重ねてきました。そして、96年。広範な人々にも協力を要請し、社会福祉法人を設立。「安心して老いる」ことを可能にするために特別養護老人ホームを建設しました。現在は保育園を含めて12の施設を運営しています。「安心・安全のくらし」から「住み続けられるまちづくり」へと挑戦の翼を広げてきた奈良県生協連。以前からこんなことが話題にのぼり、語り継がれていました。

「いつの日か、医療と福祉の生協ができたらいいね」

出会いの時

開設委員を務めたみなさんの最後の話し合い。議題はこれからの「夢」でした

そして時が流れ、2009年。「医療福祉生協があったらいいね」という思いと「医療福祉生協をつくりませんか」という話が出会いました。医療福祉生協がなかった奈良県。そこに医療福祉生協をつくりたいと願う日本医療福祉生活協同組合連合会が呼びかけたのです。奈良県生協連は前向きに受け止め、その実現性について検討を開始しました。

当時、奈良県生協連の専務理事をつとめていた仲宗根さんはいいます。
「1991年、日本生協連の総会で『医療生協の患者の権利章典』にふれ、深い感動を覚えました。患者と医療従事者がともに健康づくりをすすめ、病に立ち向かう。こういう生協が奈良県にもほしいと強く思っていたのです。そこへ医療福祉生協連からの呼びかけがありました。もしかしたら夢がかたちになるかもしれない…。わくわくしましたね

医療福祉生協をつくる

奈良県生協連は動き出しました。医療福祉生協について学ばなければなりません。なぜ奈良県に医療福祉生協が必要なのか。その答えを見つけるための地域調査をしなければなりません。設立に賛同してくれる人集め、医療福祉生協の組合員ふやし、医師の確保、診療所を開設する場所探し、そのための予算も検討しなければなりません。次から次へと押し寄せてくる課題に立ち向かう日々。やがて調査の結果が明らかになります。奈良県南部は山間・森林地帯が圧倒的に多く、過疎と高齢化がすすみ、医療の基盤も脆弱であること。したがって健康づくりを促進し、高齢者のくらしを支え、診療を可能にする体制がぜひとも必要であること…。地域訪問からは、いろいろな反応が返ってきます。購買生協は誰でも知っているが、医療福祉生協については知らない人がとても多い。毎日が学習の日々。同時に、新しい発見の日々でもありました。そんな中で、お互いに確認し合っていた言葉。

「生協は自分たちの必要な物やサービスを自ら出資し、調達し、運営・参加し、支え合う組織。この精神を医療と福祉の分野に広げる。これが私たちの医療福祉生協づくりです」

私たちの診療所

みみなし診療所のスタッフ全員(提供:奈良県医療福祉生協)

近鉄線大和八木駅を下り、耳成山をめざして歩いていくと、市街地は住宅地へと変わっていきます。その一角に36年の歴史を積み重ね、地域のくらしと深く結びついてきた市民生活協同組合ならコープの「みみなし店」があります。奈良県医療福祉生協をつくるための発起人会は、いくつかの候補地を検討した結果、この店舗がある地域に診療所をつくり、当面のスタートを切ることにしました。診療所については新築ではなく、「みみなし店」敷地内にある建物の一部を借り受け、改装・内装をほどこして開設することを確認し合いました。期待の中で工事がすすみます。夢がかたちになっていきます。そして、12年8月1日、やっとオープンの日を迎えることができました。待合ロビーにあるパステルカラーの長椅子、開設を祝う蘭の花々、診察室、処置室。そして、内視鏡室にレントゲン室…。何もかもが新しい。診療ゾーンの奥には、広い組合員ホールも確保しました。診療所は、目の前にある耳成山にちなんで「みみなし診療所」と名付けました。

私たちには夢がある

診療所に対する要望をまとめる。健康チェックを通して医療福祉生協ができたことを伝える。お知らせのチラシをまく。組合員ふやしのために地域を歩く。診療所開設に向けて、19人の開設委員さんたちは、いっぱい汗を流しました。その開設委員さんたちに、これからの夢をお聞きしました。

「これからは支部づくり、班づくり。組合員さんといっしょに、楽しい活動をつくっていきたいと思います」
「高齢の方々のために送迎問題を解決したい。それと、みんなが集えるような『おしゃべりカフェ』を地域のあちこちで開きたい」
「食の安全、体の安心…。購買、医療、2つの生協の特徴を組み合わせて地域を変えていけたらと思いますね」
「健康相談が気楽にできる診療所にしたいな。楽しいサークル活動や勉強会もしたい。組合員ホールを有効に使わなくちゃ」

新生・奈良県医療福祉生協。これからの活躍を、全国の仲間が見守っています。

ならコープ「みみなし店」の敷地内にオープンした奈良県医療福祉生協の「みみなし診療所」

〈奈良県医療福祉生協〉
●設立年月日 2012年6月6日
●組合員数 2,020人
●出資金 3,097万2,000円
●支部・班数 準備中
※2012年8月30日現在