医療福祉生協の理念をつくろう(6) 「一人は万人のために、万人は一人のために」を考える:comcom8月号

医療福祉生協連専務理事 藤谷惠三

今後2年間かけて論議してつくる「医療福祉生協の理念」は、ふだん全国の組合員が大事にしている言葉が基礎になります。今回は、これまで私たちが大事にしてきた言葉について考えてみたいと思います。

協同組合や生協の理念として語られる言葉に「一人は万人のために、万人は一人のために」があります。この言葉は、古代ゲルマン人の時代からある言葉のようで、アレクサンドル・デュマの『三銃士』(1844年)にもみられます。ドイツ農協運動の父とされるライファイゼンが、1872年にこの言葉を協同組合運動に引用したといわれており、協同組合における人と組織のかかわりや人間関係を表していると理解されています。「自分のことだけでなく、みんなのことを考えよう」「みんなで(あるいは組織として)、一人ひとりを大事にしよう」などの意味合いでつかわれることが多いと思います。

この言葉は、永遠に変わらない価値を持っていると思います。しかし、私は今の時代と医療福祉生協の役割を考えたとき、理念としてより適切な言葉を見つける必要があると考えています。たとえば、「歴史の発展によって生協が一人ひとりを大切にし、みんなのことを考えるのは当たり前の世の中になってきた。今は、一人ひとりがどう向き合うかが大事だ」という視点に立って理念を考えると、「医療福祉生協は、いろいろな組合員がいることがすばらしい」「組合員がそれぞれの個性を輝かすことのできる組織が医療福祉生協だ」というような特徴を表した言葉のほうが適切ではないかと思うのです。このようなニュアンスには、「みんなちがって、みんないい」(金子みすゞ)というような言葉がぴったりきます。格差社会が広がり孤立感が強い現代では、「そうか、医療福祉生協は今の私のままで大事にされるんだ」という安心感が共感を広げるのかもしれません。たとえば、南医療生協の基本理念「みんなちがってみんないい ひとりひとりのいのち輝くまちづくり」は、そんな思いを反映しているのだと思います。

同じ医療福祉生協のめざす組織や人のあり方でも、社会的な側面を重視して言葉にすることもできます。たとえば、「せっかく日本国憲法があるのに、人権や社会保障がないがしろにされている。憲法で保障されている国民の権利が活かされる社会をつくろう」という視点でみると、「私たちは、人が人として大切にされる社会をめざします」(医療生協さいたまなどの基本理念)という言葉が「めざすもの」を表す言葉となります。

このように、理念づくりは社会的に焦点となっている問題点、私たちの運動の発展による課題の変化、医療福祉分野の特徴などをどう捉えるかによって大きく変化するものです。組合員一人ひとりが「自分が医療福祉生協の中で大事にしている言葉」を2年間かけて出し合うことによって、理念を豊かに創造したいと思います。