70の班とともに 大分県医療生協 臼杵支部:comcom6月号

臼杵の町

臼杵市は大分市街地から30kmほど南下したところにある、海沿いの小さなまちです。人口はおよそ4万人。農業、漁業、醸造業などが基幹産業になっています。しかし、若者が市内で仕事を確保することは難しく、流出に歯止めがかかっていません。その一方で、高齢化がすすんでいます。2005年、隣接する山間の野津町と合併しましたが、これらの社会的な問題が好転したというニュースは聞こえてきません。

臼杵支部

手づくりのお手玉に興じる理事の松尾喜代美さん

大分県医療生協の拠点、大分健生病院は大分市内にあります。臼杵市に住む組合員が日常的に利用するにはちょっと遠すぎます。「臼杵のまちに医療生協の診療所がほしいね」。日に日に組合員さんの声は大きくなっていきました。そんな中で、「支部をつくる。2千人の組合員をつくる。診療所をつくる」という動きが本格化しました。今から13年前のことです。

仲間ふやしは班づくりから

1日も早く2千人の組合員づくりを実現したい…。理事さんや運営委員さんたちが、そのために打ち立てた作戦。それは「班づくり」でした。友人知人に声をかけ、その人たちに最低3人のグループをつくってもらう。そこで、医療生協について学び合い、みんな組合員になってもらう。組合員になってもらったら、そのまま班として活動してもらう。簡単にいえば3人ずつ組合員をふやしていくという作戦です。こうして生まれた班は、農村部から山あいの地域へと広がっていきました。結果、70の班を持つ今日の臼杵支部ができ上がったのです。

紆余曲折

「これが私たちの作品です」北ノ口区の公民館に集う班会のみなさん

臼杵支部の班づくり・仲間づくり作戦は順調に推移しました。支部ができて3年が経過した2000年初頭の春。やっと確保した支部の事務所に運営委員さんと30人ほどの班長さんが集まり、総代会に向けての話し合が始まろうとしていました。その時、本部から重大な報告がなされました。精いっぱい努力したが、医師の確保が難しい。したがって、当面、臼杵地区に診療所を開設することはできない…。理事の松尾喜代美さんはいいます。
「ショックでした。支部の勢いが、まるで潮が引くように消えていく…。そんな感じでしたよ」

臼杵支部は劇的な方向転換を迫られました。医療生協の事業利用が困難な遠隔の地で、地域に根ざした医療生協をつくるにはどうしたらいいのか。新たな課題への挑戦が始まったのです。

班を基礎に

「プレゼントして喜ばれるのが何よりもうれしいです」手作りの人形を抱く支部長の松井朋之さん

臼杵支部は、班会開催に力を注ぎました。医療福祉生協の仲間として学びあい、支えあうことで「安心のくらしをつくる」ことの大切さを強調したのです。毎日、どこかで班会が開催されている。そんな状況が生まれました。地域のあちこちで、「高血圧と合併症」「患者の権利章典」「肩こりと腰痛」「目の病気」「骨粗しょう症」「糖尿病」「肥満と病気」「介護保険学習」「介護認定の受け方」など、病気とくらしに直結したテーマの学びあいが広がっていきました。そこには、お金にはかえられない人と人とのつながりも生まれました。同時に臼杵支部では地域の支えあいを確かなものにしようと、20人を超える2級ヘルパーさんを生み出しました。この流れは今日の認知症サポーターづくりへと受け継がれています。

班を楽しむ

「この結果なら認知症の心配はないね」認知症をチェックするタッチパネルテスト。「心配ありませんね」の声に安心の笑顔が広がる

臼杵支部の班。最近生まれた班もありますが、その大半は支部の設立時期と時を同じくして誕生しています。それぞれが10年を超える歴史を持っているということです。理事の松尾喜代美さんがいいます。
「歴史が長いからね。病気の勉強はほとんどやりました。これからは楽しみづくり。今は手芸ブーム。半分以上の班が手芸を楽しんでいると思います。手先を使う。創造性を働かせる。作品を楽しむ。人にあげる。喜んでいただける。そうすると嬉しい。若やいだ気持ちにもなれる。立派な認知症対策にもなっています」

年月が経過し、班の仲間もそれなりに年を重ねる中で、その時々に見合った班会メニューが生まれているようです。

新入職員さんいらっしゃーい!

「私にもやらせてください」すっかり打ちとけた組合員と新入職員

間もなく桜が満開を迎えようという春の日。臼杵市の塩入区にある緑公民館を、13人の新入職員が訪れました。班会体験学習が研修の一環として組まれていたのです。新入職員を迎えたのは、みどり班をはじめとする3つの班。2ヵ月に1回の定例班会を12年間続けています。

「いらっしゃい。ありのままを見てもらえればいいと思います」
班のみなさんはそういうと、血圧チェック、体脂肪測定、尿チェックなどを手際よくすすめていきます。組合員にとっては当たり前の光景ですが、医療福祉生協を知らない新入職員にとっては新鮮だったのでしょう。その様子を驚きの目で見つめていました。

これからもよろしくね

「うん!おいしい!」おふくろの味を堪能する新入職員のみなさん

昼食は、組合員の手づくり料理。新入職員のみなさんは「おふくろの味」を満喫。そして、食後に組合員から歓迎と激励の言葉が…。

「完璧な人間はいない。でもきっといいところはある。そこを見つけて笑顔につなげることが大事だよ」
「これからお互いに話せる関係、育ちあえる関係をつくっていこうね」
「私は若い職員さんを見ると幸せになる。明日がある…。そんな気分でいっぱいになるんです」

人生の大先輩、組合員の言葉には温かさと奥の深さがあります。新入職員からもお礼の言葉が飛び出しました。
「今日、みなさんにお会いして、どういうところに就職したのか肌で感じることができました。がんばります。よろしくお願いします」
「みなさんの笑顔がいいなあと思いました。温かいと思いました。その笑顔、忘れずに働きます」

新入職員を笑顔で迎える「班の力」。そこには12年という歳月の中で培ってきた「確かさ」がありました。

臼杵支部の明日

運営委員のみなさんがいいます。
「これからも班を基礎にした活動を大事にしていきたいです。しかし、高齢化の問題もあるので、班を支える担い手さんをもっとふやす必要があります。これからの課題は、さらなる担い手づくり。これが柱ですね」
「それと、大分健生病院を利用するために必要な足の確保。送迎体制の確立が急がれます」
「医療福祉生協が『見える』。私は、ここにこだわりたい。診療所でなくてもいい。たとえば訪問看護センターとか…。やっぱり、医療福祉生協を身近に感じるって大事なことだと思うんです。高齢化すればするほどに切実ですからね」

班にこだわった臼杵支部の「明日づくり」。挑戦はこれからも続きます。

〈大分県医療生協〉
●設立年月日 1981年12月4日
●組合員数 2万3,664人
●出資金 7億2,800万円
●支部・班数 16支部 269班
●事業所 病院1 医科診療所1 歯科診療所1 往診クリニック1 訪問看護1 介護関連6
〈臼杵支部〉
●設立年月日 1998年
●組合員数 788人
●班数 70班
●運営委員数 9人
※2011年3月31日現在